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最高裁判所第三小法廷 平成4年(行ツ)35号 判決 1992年12月15日

静岡県熱海市和田町一二番三二号

上告人

株式会社 和菓子村上

右代表者代表取締役

村上良昭

右訴訟代理人弁護士

須藤英章

岸和正

京都市左京区岩倉幡枝町六〇一番地の一八

被上告人

石原義正

右訴訟代理人弁理士

新実健郎

村田紀子

橋本昭二

右当事者間の東京高等裁判所平成三年(行ケ)第一〇四号審決取消請求事件について、同裁判所が平成三年一一月一八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人須藤英章、同岸和正の上告理由について

原審は、(一) 本件商標である「白山雲竜」に熟語的意味合いはなく、本件商標は、全体として一連に称呼するにはいささか冗長であることから、「ハクサン・ウンリュウ」と二つに分断して発音される可能性がある、(二) 本件商標中の「白山」の部分は、観光地として著名な、岐阜・石川両県にまたがる山の周辺地域を表示するものであって、「白山」の文字を産地又は販売地の表示として使用した商品は他にも販売されていることから、自他商品識別力が弱い、(三) これに比して、本件商標中の「雲竜」の部分は、「雲の中の竜」あるいは「雲に乗って昇天する竜」を意味する言葉であり、一般的に使用される名称ではないから、これが第三〇類「菓子、パン」を指定商品とする商標として使用された場合には、自他商品識別力が強い、(四) そうすると、「白山」及び「雲竜」の文字から成る本件商標からは、より自他商品識別力の強い「雲竜」の文字部分のみが独立して認識され、本件商標から「ウンリュウ」の称呼及び「雲竜(雲の中の竜)」の観念が生ずるから、本件商標は、引用の各商標と称呼、観念において類似する、と認定判断した。原審の右認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、是認することができ、その過程にも所論の違法は認められない。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は、原審の専権に属する事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 坂上壽夫 裁判官 貞家克己 裁判官 園部逸夫 裁判官 佐藤庄市郎 裁判官 可部恒雄)

(平成四年(行ツ)第三五号 上告人 株式会社和菓子村上)

上告代理人須藤英章、同岸和正の上告理由

一、御庁昭和五七年一〇月八日第二小法廷判決(特許と企業一六七号九頁)は「どさん子大将」の文字を縦書きしてなる登録商標が、これと指定商品を同一にし「どさん子」の文字を左横書きしてなる引用商標と類似しないとして審決を取り消した東京高等裁判所昭和五七年三月三一日判決(無体裁集一四巻一号一七三頁)を支持している。

二、右事件における商標は、別紙一のとおり、『「どさん子」の文字部分と「大将」の文字部分との間に、その書体の大きさや形態上に差異がなく、また、両者の間に特に間隔があるわけでもなく、』これを『構成する六個の文字は、すべてほぼ同等の大きさ及び同一の書体で、かつ、各文字の間隔もほぼ同様に一連に結合してなるものであり、その称呼も、「ドサンコタイシヨウ」と九個の音からなるさほど長いものでもない』(右高裁判決一七八頁)。

これと比較して、本件登録商標の「白山雲竜」も『「白山」と「雲竜」の各文字は、その書体、大きさ及び間隔からみて、その間に主従の関係及び軽重の差は認められない』(原判決一一丁)し、本件商標の称呼は「ハクサンウンリュウ」の九個の音、若しくは拗音を加えて八音からなるものであり、さほど長いものではない。

ところが原判決は、『本件商標は、拗音を加えて8音であり、これを全体として称呼する場合、一連に称呼するにはいささか冗長であ』る(一二丁)としている。九個の音からなる「ドサンコタイシヨウ」の称呼を「さほど長いものでもない」とし一連に称呼されるものと解した前記判例に照らし、原判決の判断は明らかに誤っている。

三、「どさん子大将」の事件では、『このように本件商標を構成する二つの語が共に日常普通に用いられるもので特異なものではなく、これを構成する文字も一連一体に結合し、その称呼もさほど長いものでないことなどを併せ考えると、本件商標においては「どさん子」の部分が主要部であり、「大将」の部分がこれに従属し、疎薄な印象を与えるものと解するのは相当でない。すなわち、元来本件商標のように、文字のみからなる商標にあっては、通常その文字に相応した称呼、観念を生ずるものであるから、たとえ、それが二つの語を結合してなるものであっても、これを構成する各文字が一様に連なり、その各語に対応する文字の大きさや形態に差異がない場合には、右二つの語のうちの一方が日常使用されない特異な語であるなどその語自体が特別顕著な印象を与えるとか、その称呼が全体として殊更冗長であるなど特段の事情がない限り、その商標は原則として一連に称呼され一体的に観念されるものと解するのが相当であって、本件商標も、「どさん子大将」の文字に相応して、「ドサンコタイシヨウ」と一連に称呼され、またその観念は、前記「大将」の語の意味合いに徴し、いわゆる「道産子」の愛称として、単なる「どさん子」よりも格別の親愛の情を強く印象せしめる不可分一体の商標として看取されるべきもの、とみるのが相当である。本件商標が「どさん子」と「大将」の二語からなる結合商標であることから、そのうち「どさん子」の部分に着目して、単なる「どさん子」の称呼、観念をもって認識する者が全くないとはいえないであろうが、それは、右認定の趣旨に照らし、極めて少数とみるべく、そのような可能性があるからといって、本件商標を不可分一体に称呼観念すべきことを否定する根拠とすることは不当である。』(右高裁判決一七八、一七九頁)とされている。

本件商標中の「白山」は“霊山”として著名な山であり、「雲竜」は“雲に乗って昇天する竜”若しくは“横綱の雲竜”ないしは“雲竜型の土俵入り”を想起させるものであり、共に日常普通に用いられる語である。「白山雲竜」を構成する文字も一連一体に結合し、その称呼もさほど長いものではないから、この商標は一連に称呼され一体的に観念されるものである。

本件「白山雲竜」の商標においても、「雲竜」の部分に着目して、単なる「ウンリュウ」の称呼、観念をもって認識する者が全くないとはいえないであろうが、それは極めて少数とみるべきで、通常は、本件商標は「ハクサンウンリュウ」と一連に称呼され、神聖な山としての白山を背景にした雲の中の竜、あるいは霊山として名高い白山に棲む雲の中の竜を印象せしめる不可分一体の商標と看取されるべきものである。

わが国では、古来漢字四文字の成語ないし熟語が多いが、「白山」と「雲竜」とは、右のように観念上の結合力が極めて強固であるから、本件商標もこの類いの造語として不可分一体に観念され称呼されるものと解されるのである。

原判決は、『本件商標が「白山」と「雲竜」の2語からなるものであるところから、「ハクサン・ウンリュウ」と2つに分断して発音される可能性がある』(一二丁)としているが、僅かな可能性の存在から不可分一体に称呼観念すべきことを否定することは前記判例に反し明らかに誤りである。

四、原判決は、「白山」の文字が産地又は販売地を表示している商品が販売されていること(本件商標に係わる商品ではない)を摘示し、「白山」が白山ないしその周辺の地名を表示するものとして識別力が弱いと判断している(一三~一四丁)。

しかし、「白山」は神聖な霊山として強い印象を与えるもので、原判決も認定しているように、「白山」の文字を縦書きしてなる第四三類「菓子及び麺ぽうの類」を指定商品とする登録商標も存在しているから、一般に産地又は販売地を表示するものではないと解されているのであり(商標法第三条第一項第三号参照)、十分に顕著性を有し、特に識別力が弱い訳ではない。特に本件商標の文脈においては、「雲竜」という語が示すものについて、その産地又は販売地なる観念を生じる余地は全くないのであるから、「白山雲竜」の「白山」が産地又は販売地を表示しているとの理解は全く成立しえないのである。原判決は、「白山りんご」、「白山饅頭」という類の表示における「白山」と本件商標中の「白山」との相違を看過したといわざるをえない。他方、「雲竜」の語は、“雲に乗って昇天する竜”の外、前述のように“横綱の雲竜”や“雲竜型の土俵入り”などを想起させるものであり、「白山」に比べて格別に強い識別力を持つものでもない。従って、「白山」と「雲竜」との間に観念において主従・軽重の差があるとする原判決は誤りである。

五、原判決は次のような論理構成によって、本件商標と引用商標を類似するものとしている。

<1>「白山」が産地又は販売地を表していると解される場合があること

<2>称呼の上で「ハクサン」と「ウンリュウ」とが分断して発音されることもあること従って、

<3>本件商標中の「雲竜」の文字部分のみが独立して認識されることもあること従って、

<4>本件商標から「ウンリュウ」の称呼及び「雲竜」の観念が生ずるから、本件商標は引用商標に称呼、観念において類似する。

前述のように、<1>の産地又は販売地の点は本件商標には当てはまらない。また、<2>のように「ハクサン」と「ウンリュウ」を分断して発音することは極めて稀であり、通常は一連一体のものとして称呼観念されるものである。更に、原判決は、<1><2>の単なる可能性から、<3>の「雲竜」の部分のみが独立して認識される可能性のあることを認定し(これも単なる可能性にとどまっている)、更に、<3>の可能性から<4>の結論を導き出している。このように極めて稀な可能性から強引に商標の類似性を認定することは到底許されない。先に、特許庁は本件商標が引用商標とは類似しない旨の審決をしているが、商標の取引社会における機能を知悉し、日常数多くの判断を重ねている特許庁の類似性に関する判断は相当に尊重されるべきであり(同様の趣旨は独禁法第八〇条第一項にも見られる)、右のような単なる可能性の存在から特許庁の認定を覆すことは不当である。

六、引用商標と本件商標との称呼・観念上の差異は既述のとおり明らかで、互いに類似するものではない。

ちなみに、引用商標と本件商標との関係と酷似する「雷鳥」(登録四三二九一七号、商公昭二八-八三四一)(乙第五、六号証)に対し、「白山雷鳥」(登録第六三四一二一号、商公昭三八-一三四三三)(乙第七、八号証)、「立山雷鳥」(登録第五七六八五一号、商公昭三五-二六三二六)(乙第九、一〇号証)、「白馬雷鳥」(登録第一四五二四八五号、商公昭五五-一六〇六九)(乙第一一、一二号証)、「アルプス雷鳥サブレ」(登録第一五九九〇〇三号、商公昭五七-六二三六一)(乙第一三、一四号証)、「剣の雷鳥」(登録第八三三五四八号、商公昭四四-五八八五)(乙第一五、一六号証)、「黒部の雷鳥」(登録第一五九一九九四号、商公昭五七-四二七四六)(乙第一七、一八号証)、及び「北アの雷鳥」(登録第一九六四二三四号、商公昭六一-九二一二四)(乙第一九、二〇号証)等の登録の事実がある。

また、「萬葉」(登録第四三〇五〇七号、商公昭二八-八二六〇)(乙第二一、二二号証)に対し、「立山万葉」(登録第一五三〇〇七七号、商公昭五六-五五五九〇)(乙第二三、二四号証)が登録されている。

さらに、「樹氷」(登録第四三一四九五号、商公昭二八-八七一〇)(乙第二五、二六号証)に対し、「白山樹氷」(登録第一〇一八七八二号、商公昭四七-四三九二二)(乙第二七、二八号証)、「昭月樹氷」(登録第六四七八二六号、商公昭三九-二九五五)(乙第二九、三〇号証)、「高原樹氷」(登録第七六六〇六六号、商公昭四二-二四三〇八)(乙第三一、三二号証)、「吾妻樹氷」(登録第一二〇七九九九号、商公昭五〇-二〇〇五四)(乙三三、三四号証)、「蔵王の樹氷」(登録第一三九三〇二四号、商公昭五四-五二五四)(乙第三五、三六号証)、「都樹氷」(登録第一六四六六七七号、商公昭五八-二九二〇九)(乙第三七、三八号証)、「大雪樹氷」(登録第一八九七七五七号、商公昭六一-一一一四八)(乙三九、四〇号証)、及び「八幡平の樹氷」(登録第二〇五二三二七号、商公昭六二-八六一八五)(乙第四一、四二号証)等が登録されている。

右記の例は、引用各商標と本件商標とが非類似の商標であることを明白に示すものである。

七、なお、御庁昭和五五年八月二六日第三小法廷判決(判例時報九七八号五二頁、特許と企業一四三号一一頁)は、片仮名文字「ワイキキパール」を左横書にした登録商標は、一連にのみ称呼・観念されるから、片仮名文字「パール」を縦書した先願引用登録商標とは類似しないとして、「パール」の部分の称呼類似を理由とする登録無効審決を取り消した東京高等裁判所昭和五四年一二月二四日判決(特許と企業一三四号三二頁)を支持している(別紙二参照)。

本件商標「白山雲竜」は、右判例に照らしても、引用商標「雲竜」に類似しない。

八、従って、原判決は商標法第四条第一項第一一号の規定の適用を誤り、御庁昭和五七年一〇月八日第二小法廷判決(特許と企業一六七号九頁)等の判例にも反する違法な判決であるから破棄されるべきである。

以上

別紙一

<省略>

別紙二

第一 〔指定商品 せつけん類(薬剤に属するものを除く)、歯みがき、化粧品(薬剤に属するものを除く)、香料類〕

<省略>

第二 〔指定商品 旧類第三類「香料及び他類に属しない化粧品」〕

<省略>

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